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ドイツで開業の寿司屋が半年でゴ・エ・ミヨ受賞!次の10年で10店の経営を目指す

ドイツ在住9年目にして独立を果たした岸本祐典さん。開業からわずか半年後にはゴ・エ・ミヨでひとつ帽子を獲得するなど、地域では既に名の知れた店へと成長。今後10年で10店舗の出店を目指す新進気鋭の経営者に話を聞きいてみたら「自己資金だけでの開業はやめたほうが良い」とのアドバイスをいただく。どういうことなのか?貴重な休日にZOOMでインタビューをさせて頂きました。

岸本祐典(きしもとゆうすけ)
東京すしアカデミーを2013年に卒業。国内の寿司店で修行した後、2014年にドイツへ移住。ヘッドシェフとしてマネージメントも経験。2022年10月にフライブルクで寿司屋「紗綾SAYA」を開業した。


今は休みたくない

ーーー  日本だと市場の休みに合わせて水曜日が定休日のお寿司屋さんが多いですが、ドイツではいかがですか?

岸本さん:フライブルクでは業務スーパーで食材を仕入れているレストランが多いです。ウチも業務スーパーや魚屋さんから配達してもらっています。業務スーパーの定休日って、日曜日と祝日なので、それに合わせて日曜休みとか、半日営業にしているところが多いですね。


ーーー  岸本さんのお店も日曜休みですか?

岸本さん: 私の店は基本的に毎日開けたいと思っていて、特に日曜日と月曜日は絶対開けないといけない。それはフライブルクで22、3年の歴史がある「Basho-An(芭蕉庵)」という日本人経営のレストランが日・月休みだからです。私の店が開いていれば、日本人クオリティーのお寿司を毎日、いつでも食べられるじゃないですか。だから、従業員がいないとか、自分に用事がある時は火曜日や水曜日休みにすることが多いですね。


開業から半年でゴ・エ・ミヨ受賞

ーーー 最近のお店のご状況について聞かせてください。

岸本さん: 徐々にお客さまは増えています。先週末でちょうど1年経ちまして。去年の10月下旬に急に役所から開業許可が下りて、ばたばたでオープンしました。宣伝も特に余裕もなく、成り行きで開けたような感じで。

最初は1日100ユーロ、200ユーロしか売り上げがない状況でしたけど、今年の6月中旬にゴ・エ・ミヨに載せていただいて、その辺から開業当初に目標にしていた最低限の売り上げはクリアできる日も多くなってきました。

それが、去年の年末の売り上げと同じぐらいで、今もそれがキープできている状況です。11月、12月、1月と売り上げが上がりやすい時期なので、今年は去年以上の売り上げを見込んでいます


ーーー やっぱりゴ・エ・ミヨの効果はすごいんですね。

(ゴ・エ・ミヨとは料理評論家のアンリ・ゴとクリスティアン・ミヨがはじめたミシュランと並ぶ強い影響力を持つフランス発祥のレストランガイド。)

岸本さん:それを見て来られた方もいらっしゃるし、知らなくてお店に来て、お会計の時に盾をご覧になられて、知るお客様もいたりで。ゴ・エ・ミヨよりは、一度食べに来られた方による口コミ効果が大きいと思っています。「友達から聞いたんだけど」って来られる方の方が多いです。


ーーー  日本だとあまりゴ・エ・ミヨは聞かないんですけど、ドイツやヨーロッパ圏だと影響力は高いんでしょうか。

岸本さん: そうですね。私はそれに載っているのを知らなかったんですけど、周りの友人・知人から新聞に載っていたとお祝いのメールが何通も届くぐらいなので。私も芭蕉庵で働くようになってから、ゴ・エ・ミヨを意識するようになりました。日本よりは浸透しているんじゃないかなと思います。


ーーー ドイツ暮らしは何年ですか?

岸本さん:今、10年目ですね。9年半くらいです。


ーーー  今までミシュランやゴ・エ・ミヨは意識されていましたか?

岸本さん:最初の5年ぐらいは賞とか新聞に載るのとは縁のない生活だったので、全然意識してませんでした。ただ、3~4年前から芭蕉庵で働くようになったんですけど、そういう賞を取ることができるレベルの店で働き始めてからは、意識するようになりましたね。ミシュランは設備的に今の店では厳しいんですけど、ゴ・エ・ミヨだったら今の店で自分の力だけで狙えるんじゃないかなと思っていました。


求人とスタッフのこと

ーーー お店は何名体制で回されているんですか?

岸本さん: 今、多い日でも私を入れて4人。少ない日は2人ですね。私ともう1人です。私以外は基本的にはホールをお願いしてます。


ーーー  全ての料理を岸本さんお一人で作っているんですか?

岸本さん: そうですね。オーダーが立て込んでいるときは、創作のお寿司では、ホールの人がソースをかけたり、トッピングしてくれたり、お手伝いはしてもらえますけど、95%は自分で作っています。


ーーー それは忙しいですね。

岸本さん:無理がありますね(笑)


ーーー それなのに、お休みを本当はしたくないっていうことですよね。

岸本さん: 今はそうです。将来的には最大で6人体制で、5~6人で働きたいなと思っています。そうするとシフトが組めるので。私も週に1日か2日は休まないとさすがにもちませんから。でも、今は無理をしてでも頑張る時期だと思うので。


ーーー スタッフの方は現地のドイツの方ですか?

岸本さん: 今手伝ってくれているのは全員日本人です。元からの知り合いに声をかけたり、飛び込みで仕事を探していると来た人もいます。あとは御社の卒業生に声をかけていただいたり。


ーーー 日本人を採用したいというお考えなんですか?

岸本さん: 私はこの会社を作るにあたって、3つの企業理念を掲げています。一つは日本人クオリティーのお寿司を提供すること。二つ目は、ブラックな環境で働いてきた経験から、できるだけ無理のない環境で長く従業員に働いてもらえるようにすること。三つ目は地域貢献で、納税をしっかりして地域にお金を払い、地元住民の方をしっかり雇用することです。

今は少ない人数で無理やりやっているので、日本語でストレスなく自分の気持ちを簡単に理解してもらえる人を雇うようにしていますが、将来的には何人でも働いてもらいたいと思っています。


ーーー  卒業生ともお話があったようですね。

岸本さん:今、手続きを進めているところで、早ければ年末から、遅くても1月から働いてもらえたらと思っています。


10年で10店舗を経営する目標

ーーー  10年で10店舗を経営するという目標があるそうですね。

岸本さん: そうですね。近い目標としては、2025年の春くらいに2店舗目としてフライブルクでフードトラックを出したいと思っています。フードトラックでは、お寿司ではなく、人気のある照り焼きの商品を販売する予定です。2026年には3店舗目として、揚げ物中心のお弁当か、原宿にあるような東京スタイルのクレープを提供するかもしれません。


ーーー  お寿司屋さんを拡大するというより、様々な業種を日本人経営のお店として展開していくイメージなのですね。

岸本さん: そうですね。今、大きい街ではすし店や和食店は激戦なのでね。元々は1店舗目をミュンヘンで開業したいなと思ってたんですけど、資金的な問題とか、ご縁もあって、フライブルクで出すことになったんですけど、実際フライブルクで良かったなと思ってて。小さい街、ここだと20万人くらいの人口ですけど、日本人経営の店はうちと芭蕉庵しかないのでね。

そしたら、お客さんの選択肢の上位になりやすいですし、できるだけ小さめの街で出店するのがいいのかなと思っています。そうなると、お寿司屋さんばっかり自分が何店舗も出すよりは、業種を変えて2、3店舗出して、また違う街で、お寿司屋さんを基軸に違う業種を2、3店横展開させていけば、うまくいく可能性が高いのかなと。

ミュンヘンも出したいですけど、その周辺にある小さめの街が狙い目です。「紗綾 - SAYA」を同じメニューで、同じやり方でチェーン店のように出せば、出すのは簡単かもしれないですけど、出した後が大変なんじゃないかなと思って。


ーーー  現在は1日に何人のお客さんがいらっしゃるんですか?

岸本さん: ラーメンの日っていう、完全にラーメンだけの日を月に1日やってるんですが、その日は100人来ます。


ーーー  特別感のある日だから「行かなきゃ」というきっかけになっているわけですね。ラーメンを提供してるお店っていくつかあるんですか。

岸本さん: ラーメン屋と言って出している店はフライブルクでは1店舗しかないです。で、そこが味噌ラーメンを出してるんですけど、スープがぬるかったり。味噌汁に近い味で。日本人がホールで働いてたりもするんですけど、味のクオリティーが足りないなと思って。

で、今、日本食材の卸業者さんとかメーカーさんがすごい頑張ってて、昔みたいに1から作らなくてもすごいおいしいスープがいっぱいあるんですよね。それをいろいろ試しまして、自分の納得できる味のものだけ提供しているんです。中にはフライブルクで一番美味しいラーメン屋さんだって言ってくれる方もいて。


ドイツ人の食文化

ーーー  ドイツにおける日本食の文化とかレベルって岸本さんから見てどうですか?

岸本さん: 日本食と言われると難しくなりますけれども、基本的には彼らは食事にあまりお金をかけません。家ではあまり調理しないし、最近の若い人とかはだいぶ変わってきてるとは思いますけど……

だから朝は休みの日だとパン屋さんに2、30人並んでるし、うちの店も駅の中にありますけど、パン屋さんとかハンバーガー屋が7店舗あるんですけど凄い行列ができてて、それ以外はあんまりで。お昼はちゃんと食べる人は多いのかもしれないですけど、夜は一般的には、パンとハムとチーズで終わりみたいな。


ーーー  それが毎日?

岸本さん: それが普通みたいですよね。だから本当に20年前とか、私が以前働いてた店のオーナーが開業された時は大変だったと、みんな食べに来ないからって言いますよね。今ほど日本食も寿司も引きがなかったもんで、だから今、私なんて苦しいと言いながらも、お客さんも簡単に来てくれる時代だと思うので、だいぶ変わったんだと思いますよ。

変わったという話で行くと、お客さんの予約が集中する人気のある日って1年で一番はバレンタインデーなんです。


ーーー  バレンタインってドイツだとどういう文化になるんですか。日本だと男性がチョコをもらうみたいな日ですよね。

岸本さん: ドイツでは男性がパートナーに愛を伝えたり、日頃の感謝をする日ですね。バレンタインデーって単発の1日のイベントなので、クリスマスとか年末年始みたいな長い期間のイベントじゃないので、1年で一番混むんです。普段は4人とかグループで来られる方も多いですけど、バレンタインデーの時はカップルだらけですね。


中価格帯を狙う理由

ーーー  岸本さんのお店はどれぐらいの価格帯を狙ってるんでしょうか。

岸本さん: 日本では厳しいと言われている中間ぐらいですかね。高級店ではないですし、高級店なんかやるつもりもなくて。だからといって安いお店ではないので。ランチに寿司と飲み物のセットで30ユーロぐらいかな。


ーーー  ランチで5,000円だと奮発って感じしますね。

岸本さん: そうですね。お昼は安いとこだと10ユーロも行かないお寿司屋さんもあるし、ウチはそういうことはしないんで。夜は単品で頼んでいただくのでもう少し、客単価が高いかな。一人あたり40から50ユーロの間くらいですかね。でも、すごいリピーターの方もいて、彼は週3日で来てくれたりもします。

使ってくださる金額はバラバラですけど、ただ、店を開けて1年で思ったことは2日連続とか、3日連続とか、昨日おいしかったから今日も来ちゃったよっていう人がすごい多いってことですかね。今までの店ではあんまりそういう方はいらっしゃらなかったから、これは嬉しいですね。


フライブルクはワインが有名

ーーー  お酒も出されてるんですか?

岸本さん: お酒は用意はしてるんですけど、役所に申請した書類に不備があって、まだ出せてないんです。持ち帰りとか宅配では売れるんですけど、店内で飲むことができなくて、それは時々言われますね。


ーーー  飲食店だとお酒出ると利益率が高いですけど、それってドイツでも同じですか?

岸本さん: そうですね。ただ、今まで見てきて感じるのは、日本人が居酒屋で食事に行って飲むみたいには、ドイツの人たちは飲まないってことですね。オクトーバーフェストでビールをガブガブ飲んでるイメージがあるけど、でもペースは日本人の方が早いんですよ。一杯をゆっくり飲んでる感じですね。レストランでは飲む人でも2杯くらいです。


ーーー  水がわりに飲んでるイメージがありました。

岸本さん: 朝から飲んでる人もいます。私も休みの日にドイツ料理屋にご飯食べに行くと、朝からビール飲んだりもしますけど、朝昼晩関係なくちょろちょろ飲まれることはあるけど、日本人みたいに夜ガッツリ飲みに行くみたいなのは少ないですね。


ーーー  お酒の許可が下りたら、どういったものを入れますか?

岸本さん: 基本的には地元のビールと日本酒をしっかりと提供していきたいのですが、地域的にはドイツの中でも南の端っこで、フランスにも近いんですね。気候的にもこの辺はワインをよく作ってて、ミュンヘンだとワイン祭りなんてあまり見かけないですけど、こっちはワイン祭りが盛んなぐらいワインの人気があるんです。

さっきも申しましたように地域貢献をしたい気持ちがあり、地元のワインは赤白スパークリングで3種類は置きたいです。郊外でワイン工場をされているドイツ人の方がいるんですが、その方の奥さんが日本人で、ウチの店にも何回か食べに来てくれて。ワインも持ってきてくださって。近くで日本人がワインを作っているのであれば、その方のところのワインは入れようかなって思っています。


修行時代にぶつかった言葉の壁

ーーー  ドイツでの修行時代について聞かせてください。今まで、何店舗のお店でお勤めされましたか?

岸本さん: 週一回のアルバイトも入れると7店舗ですね。


ーーー  どこが一番大変でしたか?

岸本さん: どこも最初の2ヶ月は大変ですけど、一番最初の店じゃないですかね。そこは社員が3人で32席の店を回してて私が寿司場、店長がホールで、ワーホリの若い男の子がキッチンっていう体制の店でした。

自分も慣れてきた時はお寿司を巻きながら、受話器を耳に挟んで注文や予約を受けたり、キッチンが忙しかったら店長がキッチンにスライドして、私が寿司やりながらホールのお客さん案内したり、お会計したりとか。仕事はどこも同じぐらいしんどいけど、1年目でドイツ語も英語も喋れないし、言葉の問題が大変でした


ーーー  スタッフさん達はドイツの方ですか?

岸本さん: 私が働いてる店は基本的にはほとんど日本人です。スタッフ同士は意思疎通ができるんですけどね、慣れないドイツ語でお客さんの対応をしていました。


ドイツで開業する狙い

ーーー  なぜドイツだったんでしょうか?

岸本さん: すしアカデミーに通ってたときに、1年後には海外で勝負するんだって決めてて、ドイツとは決めてなかったですけれども。当時33歳で、ワーホリも使えない。そんな状況です。

例えば、33歳から10年15年、日本のお寿司屋さんで修行しました。45とか50で東京か大阪で独立しました。そんな背景の自分の店に来てもらうメリットがあんまり想像できなかった。

だったら、すしアカデミーを出て、ちゃんとお寿司を習った日本人が、海外でやってますの方が、自分のお店に来てもらうメリットがお客さまにあるんじゃないかな。ビジネスとして勝負(独立開業)できる可能性が高いんじゃないかなって思って。

で、いろんな自分の好みとか条件で選んでいったらドイツが残った。暑い国は嫌だとか、英語を話せないから英語圏の国だとスタートで負けちゃうなとか、英語以外の国ならじゃあヨーロッパかな。ヨーロッパの中で労働ビザが取りやすくて、経済的にも安定している国ってドイツしかないな。ビールも車もソーセージも好きだし大丈夫かなって感じで。

結果、10年かかりましたけど独立できました。なので、ドイツが大変だからって日本に戻って日本で独立するっていう選択肢が私には残ってなかったですね。


ーーー  独立という目標がずっとあって、そこにたどり着くために逆算して考えていたんですね。ドイツ語はいつから学ばれてたんですか。

岸本さん: 日本にいる時に、ドイツに行くって決まった時から勉強しましたけど、あんまり勉強好きじゃなくて、こっちに来てからも2年目に1ヶ月だけ語学学校に行ったこともありましたけど、ずるずる喋れないまま何とか乗り切ってた感じです。でもありがたいことに6年目くらいかな。芭蕉庵で働いている時に、語学学校に行かせてもらえて、それでようやく永住権に必要な最低レベルはクリアした感じですね。


ーーー  お仕事だけやってると意外と過ごせちゃったりするそうですね。

岸本さん: 日本人の店で働いてたら語学力がなくても行けちゃいます。あとは人づきあいだけきっちりやっておけば、病院行かないといけないとか、銀行で問題があったとかでも助けてくれる人がいたりするから乗り切れちゃうんですよね。


日本人コミュニティーに助けられた

ーーー  ドイツだと日本人もたくさん住まわれてると思うんですけど、日本人のコミュニティーがあるんでしょうか。

岸本さん: 私はミュンヘンの時は2年半くらい和太鼓のグループに入ってたんですね。だから休みの日はその人たちと練習したり、演奏会があったりっていう過ごし方が多いですかね。他の日本人とかもテニスとか、野球とか、ビーチバレーとか、そういうグループに入る人が結構いますね。

フライブルクにも和太鼓のグループがあって、演奏会見に行ったり、差し入れ持って行ったり、去年の夏には人がいないからって手伝ったこともありました。そういう趣味のグループに所属して、交流している人は多いんじゃないですかね。


ーーー  じゃあ、岸本さんがこの10年、ドイツに居られたのは、そういったグループのおかげでもあったりするんですか。

岸本さん: 勿論そうです。一番最初の店が社宅に住ましてもらっていたので、転職する=家を探さないといけなくて、ドイツ語できないし、1日中働いてて家なんて探せないしっていう時に、少し前に知り合った和太鼓のグループの人たちが探してくださって。家が見つかったからなんとかドイツに居れた。

それがなかったら一旦、日本に帰るしかないかなって時もあったので。よくね、就職の話で労働ビザの話が出ますけど、ビザなんて日本人が日本食レストランで働くなら100%取れますから。それよりもドイツで大変なのは家探しなんで。


ドイツの物件探しは大変

ーーー  何が難しいんでしょうか。

岸本さん:最近、だいぶ新築物件とかも増やしてましたけど、日本ほど空き物件がないんですよね。1個部屋が開きましたよってなったら、場所によっては内見に同時に30組くらい来るっていう話も聞きます。そして、日本と比べて家賃が高いです。特にベルリン、ミュンヘン、フランクフルト、フライブルクはドイツの中でも高い街に入ります。部屋があっても高いから自分の選択肢には入れられなかったり、いいなと思ったら競合がいっぱいいてっていう感じですね。


ーーー  物件自体が少ないというよりかは、値頃な物件が少ないっていう感じでしょうか。

岸本さん:いえ。物件自体も少ないです。


ーーー  それは国として制限してるんでしょうか。

岸本さん: 私も詳しく分かんないですけど、そもそも街によっては新しい建物があまり建ってない街も多いんですよね。古い建物を綺麗にして残す方針だと、部屋数がまずそんなに増えていかない。そこに難民で人が増えてるんで、さらに物件が見つかりにくくなっていく。


フライブルクで日本人が経営する唯一の寿司屋

ーーー  コロナ禍のドイツでのことを教えてください。

岸本さん:私はありがたいことに、ほとんど変わらず、毎日働いてたんですよね。勤務時間もほぼ変わらず。持ち帰りと宅配はできてたので。店内で食べることがダメで。労働時間は、8時以降は出歩いちゃダメな時期もあったので、営業はちょっと短くなったりはしましたけど、それでもお給料はほぼ100%もらっていました。芭蕉庵の社長さんが従業員のためにすごい頑張ってくれたと思いますよ。他の友達の店だとずっと休みで、給料も60%しかもらえなかったっていう人もいるし、ありがたいですよ。


ーーー 芭蕉庵は岸本さんが直前まで働かれてたお店なんですよね。何年ぐらい働いたんでしょうか。

岸本さん:3年と2か月です。そこでは、完全に寿司場の仕事しかしてなくて、寿司場が2人体制でした。一人がにぎりと刺身を担当してて、私がいた2番手のポジションは巻物と、1番手の補助ですね。私は一応全部できるんで、お互いに忙しかったら手伝い合う感じです。


ーーー 何席のお店でしょうか。

岸本さん: フルで入ってた時は46席ぐらいあったのかな。私が30から40席ぐらいの店をオープンさせたいって思ってたんで、それぐらいの店で働くことが多かったですね。フライブルクで日本人が経営する唯一の寿司屋でした。


ーーー  日本人の社長さんはどういった方なんでしょうか。

岸本さん:元々はサッカーをされてた方で、今は15歳ぐらいの子供たちにサッカーを教えているというか、チームの監督をしてて、今は研修を受けたりして、また次の上のステップに行くとは言ってましたけど、サッカー関係の仕事と芭蕉庵の経営とされてるみたいです。


ーーー  オーナーさんからはお仕事に対して何か要求があったりしましたか。

岸本さん: いや?何もないですよ。


ーーー  それは良いですね。うまいことやってよみたいな感じですかね?ご自身は料理人ではないんですもんね。

岸本さん: そうですね。ホールで接客をされてました。


自己資金だけでの開業は危険

ーーー 「紗綾 - SAYA」を開業するに当たって、どの様な準備をされましたか?資金の目標とかありましたか。

岸本さん: いや、貯金は多少はしてましたけど、車1台も買えない少ない金額ですよ。お金はどうにでもなると思ってて、それよりは店を出したいからって、それのために食べたいものを我慢して、欲しいものを我慢してっていうのはやりたくなかった。できる範囲で毎日の生活を充実させながら独立したかったので。

お金はドイツに来てこの10年で得た信用です。銀行で借りるのか、今だったらクラウドファンディングっていう方法もありますけど、私は8年来のドイツの知人からお借りすることができて、それを少しずつ返済してるんですけどね。

全部自力で貯めて開業するっていうのは逆に危ないと思ってね。誰の信用もなく、銀行から借りれない状況で、自分の貯金だけでやると、もし自分の貯金が尽きたら終わりじゃないですか。それよりは、いろんな人が協力してくれる。助けてくれるような信用のある人間であることが大事なのかなと思って生活してきました。

日本にいたら、遊ぶ誘惑も多いし、友達だっていっぱいいるし、私も弱い人間なんでフラフラしちゃうけど、こっちは仕事ばかりの毎日だったし、そんなに買い物もね。まぁ、車は持ってたし、バイクも2台。今乗ってるスクーターを入れたら3台買ったし、買うものは買ってるんですけど、それでも日本と違ってお金は貯めれたんでね。だからこっちの方がやりたいこともやりながらできたなとは思ってますね。


ーーー  ドイツの方が、日本よりお給料は良いんでしょうか。

岸本さん: そんなに変わらないとは思うんですよ。アメリカじゃないから。でもそうですね。使うことが少ないですからね。


ーーー  でもバイクを3台持つってなかなかだと思います。

岸本さん: でもね。自動車税はこっちの方が安いんですよ。中古の車で良ければ安く買えるし、車検も安いし、だから日本ほどお金かからないんですよね。まぁ、ガソリンは高いですよ。基本ハイオクしかないですから。


ドイツ人は働かない?

ーーー  最近、日本がGDPでドイツに抜かれたというニュースをみました。ドイツの景気の良さは感じますか?

岸本さん: どうなんでしょう。でもドイツの人は日本の人ほど働かないですよ。景気が良いかどうか分からないですけどみんな働かないですね。


ーーー  なるほど。じゃあ、ドイツにおいて岸本さんは異質なわけですね。

岸本さん: 異常って言われてます。ドイツ人の友達とか日本人にも言われるけど、だって今月も今日と、2週間前しか休んでないですから。


ーーー  1日何時間働くんですか?

岸本さん: 長い日は朝6時から買い物行って、休憩中も仕込みやったり、予約で大きい注文があったら作ってるから酷い日は15時間、休憩もなく働いてる日もあれば、すごい暇な時は、事務仕事とかして休憩もするし、8時間しか働いてなかったりしますね。オーナーだから働いてないということはないですよ。


ーーー  むしろスタートアップだからオーナーこそ働かなきゃっていうことですよね。

岸本さん:働いてくれないんでね。今の人は。


給与交渉は大事

ーーー  当校の生徒さんも、海外で働きたい方が増えています。ドイツは日本人すし職人が働く場所としてお勧めできる場所でしょうか。

岸本さん:もちろんです。さっきも言いましたように、労働ビザが取れる職場もあります。ただ、いい職場って人それぞれですけど、いい職場はもしかしたら少ないのかもしれない。最初は額面で最低賃金からのスタートだと思うんですよ。

よっぽどの経験がある人じゃない限りね。ってなると、今、ドイツの最低賃金はたぶんレストランだと2,200ユーロくらい。25万、27万円くらいの額面から。それだと手取りが大体1,600ユーロくらいです。20万円くらい。そこからのスタートになりますけど。

でもそこで1年2年経験を積んでね。ドイツ語もしゃべれるようになって、技術的にも安定してっていう時に転職するんです。そこで給与交渉だとか条件交渉して、またそこで違う技術、違うやり方を勉強してっていうのを3回くらい繰り返せば、私も3店舗目、4年目に手取りで40万円くらい貰ってた時期もありますから。ただ、とにかく忙しくて、しんどかったですけどね。でも、それがあったからこそ、今があるのかなと思います。


ーーー  お一人で何でも回せるようになって初めて交渉できるっていうことですもんね。

岸本さん:そうです。一人で調理が全部できるだけじゃなくて、ホールの指示もできて一人前なんだと思います。コツコツとやっていくしかないですよ。それが日本だとだいぶ時間がかかるけど、ドイツでなら私の場合は、4年目に月の手取りが40万円になったんで、頑張ればいくらでも稼ぎ方はあるんでね。


ドイツ人オーナーからの要求

ーーー  日本人オーナーの店と、ドイツ人オーナーの店で違いはありますか。

岸本さん:同じところから話すと、どっちの店でも文句は言われますね。日本人オーナーだとホールやってる人が多いのかな。それでお金の部分で細かいことを言われたりします。ベトナム人とか、アジア人オーナーだと働かない人が多いかな。

ドイツ人オーナーだとホールに顔を出すけど、お客さんを回るのが中心で店に来ない日も多かったりして、あと、私が知っているドイツ人オーナーは、日本人以上に『和』にのめり込んでいるというかね。ドイツ人が好きな日本を要求されるのが大変だったかな。


ーーー  それは料理のクオリティーのお話でしょうか。オーナーになるような方だと良いお寿司も経験されてて、舌も肥えてて、あそこのお寿司を再現しろとか、そんな感じでしょうか?

岸本さん: 言ったらそういうことなのかもしれないけど、私はそこは腰掛バイトって言うかお手伝いしてただけやから、そんなに悪いオーナーとは思わなかったけど、毎日いるとそんな感じかな。


ーーー  これからは岸本さんが人を使っていく立場になるわけですよね。

岸本さん:  私はね。あんまりうまくないんでね笑。でも、1年前からずっと手伝ってくれてる人がいて、彼女には感謝しかないですね。本当はもっと小さいお店だったらね、私も余裕あったんですけど、予定してた倍の大きさなんで、しんどいなっていうのがあって。

色んな人にも言われるんですよ。駅じゃない場所で、もっと小さい店でやった方がいいよって。でも、まず物件がないし、小さいお店借りるにもすごいお金がかかるわけですよ。ここはホント、大家さんが優しくて、いろんな縁とか協力があって、逆にこのお店しか借りれなかった。だからなんとかここでやるしかないんですけど。


集客について

ーーー  集客を安定させることが今後の課題なんでしょうか。

岸本さん: そうですね。ただまぁ、それは一気に増えないんでね。


ーーー  集客は今どんなことをされてるんですか。

岸本さん: 何もしてないです(笑)。余裕ないからね。


ーーー  口コミサイトに登録するとか。

岸本さん: そういうのはやってます。Googleマップでコメントくれるのが多くて、今ようやく100件を超えて。点数はずっと4.8で。他の店で一番高いところだと4.6かな。芭蕉庵とか。宅配のアプリも、Googleマップも一応、フライブルクでは一番点数が高くて、そんな状況ではあります。


ーーー  日本人は評価が辛い印象がありますが、ドイツ人はいかがでしょうか?

岸本さん:知り合いの日本人は5点をつけてくれますけど、見ず知らずの人はあんまり書かないですね。私は書く方やけど、ドイツ人はどうかな?みんな優しいですよ。ただ、1点をつけてくる人が何人かいましたけど、味のことじゃないですね。ドイツ語が全く喋れない人がホールで働いてるって。ワーホリの女の子がね、働いて1ヶ月2ヶ月くらいの時に書かれました。そんな感じですよ。


ーーー  低い点数をつける人って味以外の話になりがちですよね。

岸本さん:こっちがね。失敗したとか、そういうことだったらしょうがないですけど、こっちに来て直ぐの人が喋れないのは当然じゃないですか。雰囲気を楽しみに外食してるような人だったら仕方ないんですけど。


ーーー  他にはありますか?

岸本さん:一応、今はインスタをやってて、特にこの2、3ヶ月はストーリーは毎日上げてます。インスタ見て来てくれる人も結構いらっしゃるんですよね。あとは、ゴ・エ・ミヨのときに新聞に載ったり、その前にも地元の新聞が新規開店のお店として紹介してくれました。ミュンヘンにいる知り合いがわざわざ新聞会社に、このレストラン知ってますか美味しいから紹介してよってメールをしてくれて。


ーーー  お店を経営してると営業のメールとか電話とかありませんか?

岸本さん:来ます来ます。メールは読んでませんね。電話は載せて無いんですよ。アプリで注文もできるし、テーブル予約もオンラインからできる。今まで働いた店でも電話に出続ける人が発生するのが無駄だと思っていたので。


ーーー  今後やってみたい集客の取り組みはありますか?

岸本さん:広告は1度ちゃんと打ちたいなとは思ってるんですけど、タイミングがね。新聞が良いとはよく聞くんですよね。さっき話した家探しも、新聞に空室ありますとか載せる人もいるし、そういう部分はまだ古いのかもしれないですね。お酒の許可が下りたら大きく打とうかなとは思ってるけど、まだ読めないんでね。

日本人の人ってドイツ人に比べて寿司屋に食べに来てくれないんですね。だからうちは今、おにぎりもやってるんです。最初は毎日作って用意しといてもほとんど捨てるみたいな状況でしたけど、今は一応回転してる。どんな形でもお客さんに来てもらわなきゃって思うから、藁をも掴む思いで、おにぎりとかラーメンもやっているんです。


編集後記

飲食店経営を考える上で『値段』、『場所』、『味』という重要な3つの要素があります。小さな店が良かったけれども、大きな店なら大きな店なりの戦い方があるんだと、工夫を続ける経営者のたくましさを垣間見ることができました。スタートアップの経営とは実に泥臭いものです。ゴ・エ・ミヨ受賞の追い風も岸本さんは冷静に受け止めています。 年末商戦、そして、再来年には新たな店の出店も計画されているようで、忙しい日々はまだまだ続きそうです。ドイツでの独立という目標を立て、コツコツと準備を続けた10年。言葉の壁、文化の違いも乗り越えた先で手に入れた信用を武器に、岸本さんの経営者人生がスタートしました。(取材日:2023/10/25)

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