美大卒の女性すし職人から学ぶマレーシア生活の楽しみ方
集中特訓コース134期卒業の畠中亜弥子さん(29)。日本料理店・和菓子店の勤務を経てすしアカデミー集中特訓コースを受講。卒業後はマレーシアの高級寿司店で経験を積み、現在は金沢で開業の準備中。
在校生を対象とした座談会でマレーシアでの経験を話していただきました。最も印象的だったのがこの言葉。
「私は人とコミュニケーションとるのが好きやし、わからん食べ物でも何でも食べれるからすごい楽しかったんですけど、現地に順応できなくてしんどかったっていう日本人の方も大勢いました。」
畠中さんの目にマレーシアはどう映ったのか?在校生からも質問が沢山集まりました。
美大卒の和食職人が寿司を学ぶ
東講師:今回はマレーシア座談会ということで、お話してくれるのは集中特訓コース134期卒業の畠中亜弥子さんです。和食の経験があって、マレーシアで一年間勤務した後に帰国し、今は金沢で開業の準備をしています。
畠中さん:よろしくお願いします。畠中亜弥子です。美大を卒業後に和食の仕事を2年半くらいやって、コースの甘味で良いものを出したいと思ってそこから和菓子も2年経験しました。
外国人のお客さんが増えたことがきっかけで海外に興味をもつようになって、海外就職を考えました。でも和食の高級店の求人てあまりなくて。一方で寿司屋はいっぱいあったので寿司を学ぼう!ってことで、すしアカデミーを受講しました。
卒業するまではシンガポールの求人を探してたんですけど、今回みたいな座談会でマレーシアで働かれてた方の話を聞いて、「あ。マレーシア良い!」って思って、マレーシアに出店している会社を見つけて採用してもらいました。
名古屋に本社がある会社で、面接は実技試験(刺身盛り、卵焼き、シャリ切り)があって、現地の料理長とは顔を合わせることは無かったです。2ヶ月でビザが下りてそのまま行った感じです。
3ヶ月間は試用期間でその後に給与決定って言われて、実際の手取りは最初が5000リンギット(約13万5千円)で、その後7000リンギット(約18万9千円)。寮があって家賃もかからなかったので全然不便なく生活できました。
保険は現地の三井住友海上に入ってて月400リンギット(約1万円)くらいを会社が払ってくれてました。何回か病院も行ったんですけど日本語対応の病院もいっぱいあるしなんにも不便はなかったです。自分で精算して後から返ってくる仕組みでした。
日本のものは何でも手に入る
生活情報でいうと日本のものは何でも手に入ります。伊勢丹もあるし、和食屋さんもめっちゃあるし、居酒屋もあるし、薬局いいったら日本のシャンプーも化粧品も何もかもある。
私がマレーシアに行く時に持っていった物って必要最低限の服と包丁と砥石と、あとドライヤー。でも普通に現地で日本製品が買えました。携帯も1000リンギット(約2万7千円)ぐらい。
交通網もめちゃめちゃ安いグラブタクシーがあるんでどこへでも行けます。電車もあるし、足がなくて困ることはないです。病院は翻訳してくれる日本人の方がついてくれたり、不動産屋さんも日本人対応のお店がいっぱいありました。
貯金できるかなと思って行ったんですけど貯金は全くできなかったです。飲み歩いてたからというのもあるんですけど(笑)もし貯金できたとしても日本円にした時にこんな少ないかなっていう感じがして、貯蓄はできなかったです。すぐ飲んじゃうんで(笑)
生徒さん:飲み代はどれくらい使ったんですか?
畠中さん:飲み代は3000とか4000(約10万円)とか使ってたと思います(笑)他のものは安いんですけどマレーシアはイスラムの国なのでお酒だけは結構高くて。日本で飲むのとほとんど変わらない感じです。
コンビニでビールとか買ってもロング缶で13リンギットだったんで350円くらいです。食べ物は安いんですけどお酒が高かったです。
マレーシアはめっちゃ良い気候でした。暑すぎないですし、雨季とかで雨降っても2時間ぐらいで上がるんで。一日中降るとか無かったです。オープンテラスで食べててもお酒飲んでても楽しかったです。
生徒さん:普段何を食べて生活してました?
畠中さん:チャイニーズがいっぱいいるので中華屋さんは多かったです。アラビック系の移民も多いからアラビックフードも美味しくて。マレーシア料理は辛いエビ炒めたやつとか、そいうのは朝ごはんで屋台で5リンギットくらいで食べれて、インド系のマレーシア人も多いのでカレーとかもめっちゃ多いし。
手羽先を炭火で焼いてる屋台があったので好きすぎて毎日行ってたんですけど、一本めっちゃでかくて5リンギットくらいで買えました。美味しかったです。
まかないはいろんな宗教の人がいるのでだいたいチキンになるんですよ。チャイニーズの人はビーフ食べれない人が多いし、ムスリムの人は豚食べれないし、毎日チキンでした。最初はちょっとお腹壊したりしたんですけど慣れました(笑)
生徒さん:自炊はしましたか?
畠中さん:しませんでした。現地の食べ物が食べれない人はしてましたけど、作るより外食するほうが安いんで。しかも24時間やってる大衆食堂みたいなとこがいっぱいあって。
だから仕事終わりでも食べれたし、朝ごはんも食べれました。まかないは現地のスタッフが作ってくれました。料理長が辛いの食べれない人やったんで、辛いのやめてって言ったら辛くない謎の料理が出てきました(笑)
マレーシアで働くということ
畠中さん:マレーシアには高級寿司店がいっぱいあります。日本のサプライヤーもすごく増えてて、日本から空輸で新鮮な魚が毎日入ってくるので日本でやるのと変わらない環境がありました。
生徒さん:働いていたお店の席数はどれくらいでした?
畠中さん:カウンターが12席でテーブルが3つあってマックスで30人です。そのお店は高級店で、お客さんはほぼマレーチャイニーズです。イスラム教の国だけどチャイニーズのお客さんがくるのでお酒も出ます。
彼らは年に何回か日本に行って美味しい寿司を食べてる様な舌が肥えたお客さんなので一切手は抜けないです。日本の高級店と同じレベルが求められます。日本人のお客さんは1割くらいでした。接待での利用が多かったと思います。
生徒さん:どんな方が働いてましたか?
畠中さん:3人いる日本人がカウンターにいて、後ろで焼き物とか揚げ物とか前菜とかデザートとかしてくれるのが全員マレーシア人でした。月一でメニューが変わるのでスタッフの教育が一番大変でした。
自分が握って出してっていうのも大変なんですけど、それよりスタッフに教えるっていうのが、最初は英語も全然しゃべれないし、見せてゆっくり説明できる時間もないし。
生徒さん:英会話はどうやって覚えました?
畠中さん:現場で覚えた感じです。伝えたいことは携帯ですぐ調べられるし、センテンスで書き出して、料理の説明も何回かやっていくと形がつかめるので。スタッフに説明してたらお客さんにも説明できるようになるし、徐々にっていう感じでした。
一番ありがたかったのは1人スタッフに4カ国語(日本語、英語、マレー語、中国語)がコミュニケーションレベルで喋れるスタッフがいたので、わからなければ彼に聞いて翻訳してもらってました。
マレーシア人はハリラヤとか断食期間の1ヶ月はずーっとぼーっとしてて、全然働いてくれないんですよ。そうなると店は忙しいし、みんなぼーっとしてるし、ちょっと大変でした(笑)
あなたは飲食業が好きですか?
畠中さん:店を選ぶときの注意点は沢山あると思いますが、まず、飲食が好きじゃないと仕事はキツイかもしれない。ハードワークなお店が多いし、日本の飲食店と同じ様に朝から晩まで働くし、休みもそんなにあるわけじゃないです。
週一休みやし、休みの日も出勤して現地スタッフが追いつかなかった仕事をやったりもしました。
同じタイミングでマレーシアで働いていた同期は大手居酒屋チェーンで働いてたんですけどそこはもっとハードワークだったみたいです。お給料は私のとこよりちょっと良かったみたいなんですけどお客さんをめっちゃ回転させるし。しんどそうでした。
私は人とコミュニケーションとるのが好きやし、お友達も直ぐにできたし、わからん食べ物でも何でも食べれるからすごい楽しかったんですけど、現地に順応できなくてしんどかったっていう日本人の方も大勢いました。
同期の彼は屋台でご飯食べるにも、どこで洗ったかもわからん皿が出てくるからそういうの気にして嫌がっちゃって(笑)
食べ物が合わなくて和食屋さんへ毎日食べに行くとか、日本人コミュニティーで良い家に住んだりするとこの給料ではけっこうキツイかな。クアラルンプールの家賃はめっちゃ高くて。綺麗な家に住もうと思うと4、5万円くらいします。
汚い家で移民の人達と住んで、1部屋だけ借りるとかだとめっちゃ安いんですけど。自分がどこまで現地に寄れるかで必要な生活費が変わってくる感じです。
生徒さん:現地の賃貸ってどんな感じなんですか?
畠中さん:私はバングラデシュ人13人と住んでました。シェアハウスっていうか、小部屋になってて私は1人で住んでたんですけど、その隣では5人で住んでるような。そこは500リンギット(約1万3千円)くらいですね。でも潔癖症の人だとあの部屋は無理かも。
最初は会社の寮に住んでたんですけど料理長と他の板前の人と朝から晩まで一緒で、仕事行くのも料理長の車で行ってっていう毎日だったので気分転換がしたくて出ることにしました。
やっぱ結局人なので。周りとうまくやれれば良いんだけど、それが合わない人とか、そこで喧嘩しちゃったりすると人間関係がうまく行かなくて2ヶ月で帰っちゃった人もいました。
採用面接での質問
畠中さん:海外就職って店も見れないし、働く人と会うこともできないじゃないですか。私はできなかったけど、可能であれば店に行く前に料理長やスタッフとスカイプで喋らせてくださいとかお願いしたほうが良かったと思いました。
生徒さん:採用面接ではどんな質問がありましたか?
畠中さん:本当にマレーシアで大丈夫?とか。マレーシアってこんなとこやよっていう説明があって、変なものとか食べれる?とか(笑)そんなこと聞かれて。会社的には早く辞められちゃうと困るから働き方も環境も含めてやっていけますかという確認が多かったです。
どこのお店も英語が喋れるとか、そんなことじゃなくて、技術がある人を求めています。行く前にどこかしらで働いてるとかそういう経験が無いと採用されないかなと思います。
今は競合店が多くなってきているので、寿司もクオリティもあげていかなければいかないっていう状況です。現地の人も舌が肥えてるし、英語よりか技術がほしい感じです。
東講師:ビザの取得難易度と取得するためのポイントってなんですか?
畠中さん:マレーシアでビザが下りるっていうのはその会社がどれだけ力をもっているかで、個人の能力ではないんです。会社がコンスタントに人を雇ってビザをとってるところは普通に降りると思います。
同じ時期に行った男の子も同じようにサクッとビザが下りていたので。遅れることはあるかもしれないですけど何ヶ月も待つみたいなことは無いと思います。
東講師:調理師免許は必要ですか?
畠中さん:あったほうが良いと思いますけど無くても大丈夫だと思います。個人の能力をあまり見られないというか、提出する書類もパスポートのコピーと、卒業証明とか。あれ?四年制大学を卒業しているのは必要だったかも。そこは調べてみて下さい(笑)
東講師:そこ重要なとこ(笑)ビザってポイント制なんですか?
畠中さん:ポイント制ではなかったです。申請して条件を満たしていればっていう感じ?料理長とかは大学出てないからどうだったんだろ?どんな感じでビザが下りているかわからない。
マレーシアの寿司事情
東講師:マレーシアではどんなネタが好まれるの?
畠中さん:ウニ、大トロ、エンガワ炙りです。脂が乗ってて味の濃いネタが人気です。回転寿司みたいな安いところになるとサーモンとか、寿司じゃない感じのレインボーなとびこ乗ってるみたいなのとかになってきます。ロールの需要はそんなでもないって感じでした。裏巻きもあんまり見ないですし。
東講師:現地の魚は使いますか?
畠中さん:まったく使わないです。現地の魚が生で食べれるようにする技術がないというか、しようともしてないんで。スーパーに売ってる魚も結構臭いです。鶏肉も臭いし。
東講師:氷の上に乗ってる感じ?
畠中さん:いえ。氷も無かったです。怖かったです。現地の人みんな普通に生で食べてて。めっちゃ臭い魚介類を。
東講師:マレーシアに行って一番成長できたことは?
畠中さん:度胸がついたっていうのはあります。あと、英語ですね。もともとパット言われてパット返すってできなかったのがスタッフ教育で英語力は上がりました。
東講師:基本は英語なの?
畠中さん:そうですね。スタッフ同士ではマレーシア語を喋ったりするんですけど、全員英語喋れるんで、英語が基本になりますね。でも安いお店とか行くと英語喋れない店員さんもいます。
東講師:技術の向上とか魚の目利きとかはどう?
畠中さん:変な魚が来た時にサプライヤーに言わなきゃいけないんで、日本で修行したちゃんと技術もっている料理長だったので教えてもらえました。
生徒さん:休みの日は何してました?
畠中さん:休みは週一休みで、年に2回一週間の休みがもらえました。ひとつは自由に設定できて、もうひとつは正月休みです。丸一日休みがあったら私は結構観光してました。
グラブで行くとめっちゃ安いし。地スタッフに連れて行ってもらったりとか。私、動物とか生き物が好きでバードパーク行きました。鳥めっちゃ好きで。
東講師:バードウォッチングの3級の資格あるんだよね?
畠中さん:2級ですよ(笑)やから見たことない鳥がいるとかめっちゃ楽しくて。朝変な鳥の鳴き声で目覚めたり、あと猿とかめっちゃ出ましたね。家の周りに。
クアラルンプールはこれからどんどん物価は上がっていくと思います。マレーシア人自身の生活レベルも上がってるし、給料も上がってるし。教育レベルとかもめっちゃ高くて、金持ちやんっていう人が多かったです。
マレーシアでの生活は私的にはめっちゃ楽しくて。移民も多かったからいろんな国の友達ができるし、文化にも触れることができるし。すごい良かったですね。
東講師:開業の準備中なんだよね?
はい。海外の人も来れるようなお寿司屋さんを金沢につくりたくて帰ってきました。
畠中さんは現在クラウドファンディングを実施中です。金沢であったかくて楽しい「おすしと和食」の世界を楽しめるお寿司屋を開業する予定です。
2019/04/03現在、1,488,001円が集まっており、彼女の想いやコンセプトが支援者にしっかり伝わっているのだと思います。和食・和菓子の経験を持ち、マレーシアの高級寿司店でも経験を積んだ彼女がどんなお店を始めるのか楽しみです。