飲食未経験から数年でフロリダの一流店で料理長として活躍の田中さん。銀座の高級店で修行
2013年9月寿司職人養成インターンシップコース(旧:寿司シェフコース)第6期卒業生の田中康博さん。首席で卒業し銀座の高級店「銀座いわ」にて約2年間修業。同店の兄弟子がニューヨークでヘッドシェフを務めることになった「すし麻布」のセカンドシェフとして渡米した。
約2年、ニューヨークにて研鑽を積み、そしてこの夏からフロリダ店にてヘッドシェフに就任することに。今回は約2年振りに帰国された田中さんに、受講生向けの座談会のゲストスピーカとして登壇して頂き、田中さんの歩みやニューヨークの寿司事情などをお伺いした。
<参考:田中さん卒業時のブログ記事はこちら>
田中さんの歩み
僅か数年で海外一流店の寿司ヘッドシェフまで登りつめた田中さんの寿司ルーツは、青年海外協力隊でモザンビークにいた時、現地の子どもたちに寿司を作ってと言われたことだった。それまで飲食業経験はゼロ、自炊もあまりしたことはなかった。
帰国後、再度海外で生活するため手段として寿司に着目、東京すしアカデミーに入学した。在学時から神楽坂すしアカデミーで腕を磨き、持ち前の器用さ、寿司への情熱も相まって、コースを主席で卒業、すぐに海外挑戦を志向したが、東京すしアカデミー福江代表の勧めで「銀座いわ」で修業をすることに。
ここでの2年間、カウンターで握ることはなかったが、高級店の仕込みの技を会得、築地からの仕入れを任されるまでになり人脈を広げていった。そして満を持して海外への挑戦を模索しているところにニューヨークに渡る兄弟子からセカンドシェフとしての誘いが。ブラジルからのオファーもあったが正統派の江戸前鮨を続けたいという思いからニューヨークを選んだ。
セカンドシェフとしてカウンター接客をする田中さん
調理未経験の青年が卒業後約5年、瞬く間にヘッドシェフまで駆け上がった。銀座、ニューヨークで鍛えた技でフロリダのセレブの舌を唸らせる鮨を提供することだろう。そして将来の夢はオーナーシェフ、年収5,000万円! 2-3年で到達を目指すそうだ!!
ニューヨークの寿司事情
「この2年でニューヨークの江戸前鮨のレベルはすごく上がったと思います」と語る田中さん。寿司と他料理の融合タイプのいわゆるコンテンポラリー系が主流だった当時から比べると、オーセンティック系といわれる本格江戸前鮨が提供される店舗が増え、これを嗜好する顧客層も確実に増えているようだ。
お客さんの半分は寿司マニアでネタの名前は全部日本語で通じ、産地まで知っている方も。残りの半分は富裕層。おまかせは180~200ドルぐらいで薄暗くてジャズが流れるようないわゆるSushi Barスタイルが多い。
田中さんのお店の仕入れは9割が日本直送、築地と九州から週5回、国内と遜色のないネタが提供できる。残りの1割はボストンからのマグロやサンタバーバラからのウニなど。日本からの流通事情、裕福な顧客層、米国でも特殊な環境ではあるが、これから益々、本格江戸前鮨の興隆が見込めそうだ。
一方で、米国で寿司職人を目指す方へのアドバイス。トランプ政権になってからビザの発給が厳しくなっているが、ESTA(短期商用や観光目的で90日以下のビザ免除プログラム)での就労を勧める店舗への就職には注意が必要とのこと。
この仕組みで就業して、期限切れ後に正規ビザがおりることはまずなく、一度却下されるとその履歴が残り、将来のビザ申請に悪影響を与えるリスクが高い。実際に田中さんの知り合いで、入国拒否をされた方もいるとか・・・。
米国で寿司職人として成功するための王道は正規ビザの取得、そしてグリーンカードの申請。就職先を決める際にはビザ申請を援助してくれる力があるか、を見極める目利きが重要。
そしてそういう企業や店舗から声がかかるためには、日本の寿司店での2年くらいの経験をもつことが望ましいようだ。
ニューヨークの生活事情として、家賃が高いこと、医療費が高いことがネック・・・今回久々に帰国する田中さん、この機会にいくつか病院を回るとか。一方で寿司シェフへのリスペクトは高く、給与も日本の3倍くらい(!)で遣り甲斐のある仕事。
ただし訴訟社会なので、セクハラ、パワハラなどには厳重注意が必要で、すし麻布のオーナー企業も従業員から訴えれれ数千万円規模の賠償を支払ったとか・・・
編集後記
「飯炊き3年、握り8年」といわれる寿司職人の世界。全くの素人がすしアカデミー卒業後に、いきなりミュシュラン星付の高級店に、そしてトントン拍子に米国大都市店舗のヘッドシェフに。まさに絵にかいたようなストーリー。
サラリと自身の体験を語る田中さんではあったが、ここまで至るには言葉には言い尽くせないような努力をされていることだろう(そういったことは一切おっしゃらないが)。成功者のお話しをお聞きするにある共通点がある。
皆さん「いつ迄に、どうなる」という確固たる目的意識を持ち、そこに到達するための努力を惜しまない。そして、常に謙虚で気負いがない。フロリダのヘッドシェフになる田中さん、オープン3ヵ月のお店には諸々の問題もあると聞いているが、それもチャレンジとして前向きに受け止めているという。
2-3年後にはオーナーシェフに、という目標を掲げた田中さんの更なるサクセスストーリーをお聞きするのが待ち遠しい。