動画でマスター!イワシの仕込みと握り
6月から10月が旬と言われるイワシ。日本では、10月4日は「イワシの日」とされているってご存知でしたか?イ(1)ワ(0)シ(4)の語呂合わせから、一般社団法人いわし普及協会が平成元年(1989年)にイベントを開催したのが由来とされています。
所変わって、ポルトガルでは、聖アントニオ(Santo António)を讃える聖アントニオ祭が別名「イワシ祭り」と呼ばれ、毎年6月12,13日にリスボンで開催されます。
色鮮やかな飾りの下、民謡をはじめ様々な音楽が流れ、人々が踊り、イワシの炭火焼の屋台からの煙があたりを満たす…そして新鮮なイワシを赤ワインとともにいただくという、何とも楽しそうな夏祭りです。
イワシは世界中の海で漁れるため、色々な調理方法が生まれ、各地で美味しく食べられる魚として人気なんですね。さて今回は、日本で食べるならイワシの握り!ということで、マイワシの仕込みを中心に、握りにしていく過程をご紹介します。
良い魚体の見分け方(マイワシの場合)
イワシは旨味の強い魚。鮮度や味の良さを見極めるポイントをご紹介しましょう。
1. 鱗がしっかりついている
2. お腹が破れたりしていない
3. 身の色が良い (目・エラ・お腹の周辺が赤くなっているものは、あまり鮮度が良くないということ)
4. イワシの大きさ別に「中羽」「大羽」などと呼ばれるが、大きさがある程度ある方が、お腹に脂がのっていて美味しい
5. 梅雨にかけて、そして秋口のイワシは脂のノリが良い
下処理
1. まな板を少し濡らしてから、鱗を取っていきます。この時お腹が破れているものがあれば、それはあまり質が良くないイワシだということを覚えておきましょう。
2. 頭から胸ビレのところに刃を当てて、まっすぐ下ろします。
3. 尾も刃の先端を使って切り取ります。
4. まな板の上に、頭側を自分の方に向け、腹側は右になるように置きます。
5. 肛門の位置から腹先の位置までを、まっすぐに切り落とします。これは内臓を取り出すための切り込みなので、あまり身を削りすぎないようにしましょう。
6. 中の内臓をしっかり取り除きます。身の内側を見て、血合いが身にしみてしまっているものは、あまり良くないイワシだと判断できます。
7. 内臓を守る役割の黒い膜も、臭みの原因になるので取り除きます。
8. おろしたら、「たて塩」と呼ばれる、3%の塩水の中に浸けます。塩水に血が流れ出ることにより、臭みを抑える効果、皮の表面の光沢を保つ効果があります。
9. 身の中の血合いは、歯ブラシなどを使って、隅々まで取り除き、お腹の掃除をします。
10. この下処理が終わってから、別の新しい塩水の方に浸けます。アジの仕込みと同じように後で軽く塩をします。
手開き〜骨を取る〜
1. 魚体を拭きます。
2. 出刃包丁でも柳包丁でも、どちらでも構いませんが、尻ビレの部分を包丁を入れて三角に落とします。
3. 次に中骨に沿って、尾の部分だけおろしていきます。
4. それから、上身側の骨も取っていきます。
5. ここからがポイント!手で開いていきます。
手開き
a. 下身(尾側)の中骨のところに人差し指を差し込むようにします。
b. 指を中骨に押し当てて、頭の方の先端を押さえながら、頭に向かって指を滑らせていきます。
c. お腹の部分を割るような感じにしていくと、小骨が取れてきます。
d. 手開き自体は簡単に出来ますが、寿司店でお客様にお出しするなら、細かいところにポイントが!頭側を開くときに、皮目ぎりぎりの所まで開くことです。これを仕込みの段階でやっておかないと、お寿司にする時に、皮の処理が面倒になります。
e. 尾の側の開いたところに指を入れて、身を押さえて骨をめくりながら取り除いていきます。小骨も一緒に取れていきます。
f. 鮮度があまり良くないと、骨を取り除く際に身まで剥がれてしまいます。鮮度が良いものを選ぶという観点で、気を付けて見ることがポイントですね。
g. ガンバラの骨の部分だけ取り除きます。変色していたりしたら、そこは多めに除きましょう。
h. ひっくり返して、反対のガンバラの部分も同じように取り除きます。少しずつめくっていく感じで、最後は刃の先端を使って丁寧に取ります。
手開き
i. 開いた魚の背びれの部分を薄く皮目だけにしておけば、後ほど皮を引く時にとても楽になりますよ。
j. イワシはとても小骨が多い魚なので、後でさらに小骨を取る作業が必要です。
血合い骨と呼ばれる部分の骨
真ん中のちょっと上にある一番太い骨
ガンバラのところに入っている骨
これら全ての骨を取り除くのが理想ですが、小骨の本当に小さいものは完全に除けなくてもそこまで気にならないとは思います。但し、手で身の表面に触れた時に、少しでも引っかかる骨があったら、それはちゃんと除きましょう。
食べる時に骨が当たると口当たりが悪くなってしまいますから、気を付けましょう。ピンセットも使いながら、丁寧に抜いていきます。
尾の方は骨が小さくなるので、あまり取ろうと触るすぎると身が崩れてしまうので、加減をしましょう。
塩を振る
1. 本当にうすい塩加減で構いません。まず皮目に塩をします。
2. ひっくり返して、身側にも同じくうすく塩をします。
3. 小さめのサイズのイワシであれば、3分から5分くらいで表面に水気が出てきます。
4. 塩をする理由は、アジを扱う時と一緒です。
- 臭み消し:塩の浸透圧で水気が外に排出されて、臭みを抑えることが出来る。臭みを取ることでさらに旨味が増す。
- 身の引き締め効果:イワシの身は柔らかいので、引き締めておかないと、握りにする時に崩れやすい。
- 効果的な下味になる:他の光り物の魚にも言えるが、塩で下味をつけた方が、寿司にした際に素材の旨味が引き出される。
5. 塩をした表面が水気が出て汗をかいたようになったら、塩水(氷水)で洗います。
6. 酢水に通します。酢水により、塩をした後に身の表面に出てきたぬめり、粘膜を流すことが出来ます。
7. これらの作業により臭みが取れると、だいぶ食べやすくなります。
青魚というのは皮目に独特の臭みがつきやすいので、酢で洗う、酢でしめる、という工程で食べやすくなるということを覚えておきましょう。
切りつけ
1. 先程、皮目のところぎりぎりに開きました。(手開きの工程-d)
その部分から爪で銀色の身の色は残しつつ、皮を引いていきます。
この時のポイントは、皮の剥ぐところを押さえながら引いていくこと。
身が冷えた状態で剥いでいくと、銀色が身に残り、きれいな仕上がりになります。
2. 切る時には斜めに切ります。最後は包丁を立てるように。表面に1本すっと刃を入れておくと良いです。
3. 銀色の身の表面に「飾り包丁」(例えば網目状)を入れると、残った骨にも刃が入ることになり、口当たりが良くなります。
4. 「観音開き」というやり方もあります。骨に刃が入ることによって、骨を断裂させることになります。観音開きのようにして身を広げると、切りつけをした時に身の幅が広くなるため、握りにした時、イワシの身で覆いやすくなる、という利点もあります。観音開きの皮目の部分にも切り込みを入れると、きれいに仕上がるでしょう。
握り・薬味の使い方
青魚に使う薬味を「青薬」と呼びます。葱や生姜がよく使われ、葱は万能ネギでも九条ネギでも良いでしょう。
生姜には臭み消しの効果がありますが、薬味の味が勝ちすぎてイワシの味を台無しにしないように、量を加減しましょう。あくまでも、イワシの旨味を引き立てる存在として使います。鮮度のとても良いものであれば、ワサビだけでも美味しく食べられますよ。
寿司のテイクアウトなど、食べやすさが重視される場合には、シャリの上に葱を乗せた状態で握っていくと良いでしょう。この工夫によって、お客様が醤油を付ける時に、薬味がこぼれることなく召し上がっていただけます。
カウンターでお出しする場合などは、握りの上に薬味を乗せるように置きます。この時、すでに刷毛で醤油をつけた状態にしておくと、お客様が薬味をこぼすことなく、食べやすくなりますね。高級寿司店では、生姜と葱をすって、ペースト状にして乗せたりすることもあります。
品種の異なる様々なイワシがあります。例えば今回仕込みをしたマイワシより、サイズの小さいカタクチイワシ(アンチョビなどに使われる)、ヒコイワシと呼ばれるイワシに関しては、先ほどお見せしたように骨を抜いたりする作業は出来ません。
イワシをお寿司にするとなると、もちろん鮮度がとても重要になりますが、世界中で取れる魚なので、色々な地域で美味しく食べられますよ。