高校教師、寿司職人になる。62歳からの挑戦
今回インタビューにご協力いただいたのは本郷康士さん(62)。37年間、国語教師として愛知県の高校に勤め、去年定年退職をした。料理が趣味で、特に魚料理が大好きだという本郷さんが寿司を握ってみたいと思ったのはここ最近だ。
自分が好きな魚の価値を一番上げることができる食べ方は寿司なんじゃないか、そう思い思い切って2ヶ月コース130期に入学をした。
世界に誇れるSUSHIを学びたい
私は定年退職後、約8か月間インドネシアのジャカルタで仕事をしていました。国際交流基金の「日本語パートナーズ」というプログラムに参加をするためです。任務は、現地の高校生に日本語と日本文化を伝えること。
日本文化・・・何を教えよう。
色々と考えたのですが、自分が得意な料理に関する何かを教えようと思いつきました。地元が愛知県なので、ひつまぶしを作ったりしてね。意外とあの甘辛いタレは好評でした。
インドネシアでは、生魚を食べる文化がありません。その理由を自分なりに考えてみました。1つは、水の問題です。現地の人でさえも水道水は口にしません。
魚の下処理にはきれいな水が必須ですから、生食の文化は根付かなかったのかもしれません。あと1つは、目利きの技術がないこと。日本には目利きの集団がたくさんいます。
鮮度のいい魚を見分ける目とそれを維持する技術を持っている。だからスーパーなんかでも安心して生の魚を食べることができるんですよね。そんな風に考えると、刺身や寿司って、本当に日本が世界に誇れる食文化なんだなあと思いました。
それ以来、ちゃんと寿司を勉強したいという想いが強くなって、思い切って2ヶ月コースを受けることにしたんです。
サプライズの連続だった2ヶ月間
料理はもともと好きでした。小さいころから台所に立って母の手伝いをしていましたし、家ではぬか漬けを漬けるのが私の役目だったりしてね。今でもお盆やお正月で親戚がうちに集まると、前の日から仕込みをして10品も20品も準備をしたりしています。
どんなに長い時間台所に立っていても全く苦じゃないんです。そんなこともあって、特に魚料理は好きだったので、なんとなく「自分はちょっと知ってるんだぞ」という偉そうな自信のようなものがあったんです。
でも、実際に授業に参加してみると、知らないことだらけでした。目から鱗が落ちるとはまさにこのことだったんですね。捌き方も自分でやっているのは全く違いましたし。
ああ、今まで何をやっていたんだろうと思うこともありましたが、先生がその都度教えてくださって、とにかく楽しく毎日授業を受けていました。先生たちもやっぱりプロですよね。
寿司の修行というと、「何やってんだ!」って怒声が飛ぶのかななんて思っていたのですが、根気強く教えてくださいました。それぞれの先生に持ち味があって、一流の料理人の人たちのそばにいることができただけでも幸せでした。
寿司のことばかり考えた日々
2か月間、私は寿司のことばかり考えて生活をしていました。散歩をしながら握りの練習のために手を動かしていたことは一度や二度ではありません。周りから怪訝な目で見られることもあったりしましたね。
でもこんな風に何かに没頭できる経験ってなかなかありません。そんな喜びもこの2か月で味わうことができました。特に私みたいな年代の人は、なんとなく人生がもうすぐ終わってしまうような気がして、新しいことに挑戦するのに逡巡することも多いかと思います。
でも、何事も初めてみると自分の世界がぐっと広がります。まだまだ色々な道にチャレンジできるんだなあという自信につながるんです。この学校は、私にそれを気づかせてくれました。
だから、今までに料理に縁がなかった方でも大丈夫です。ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。
寿司+和食で目指せ料理人!
夢は、自分の店を持つことです。実は入学した頃からこの気持ちはあったのですが、冗談半分に考えていて。周りは皆私の料理を褒めてくれるけれど、実際に店を出したってき誰も来ないだろうなと思っていました。
でも、2ヶ月間一緒に頑張ったクラスメイトの中に、本気で開業を考えている人が何人もいました。そういう環境に身を置くと、不思議と自分にもできそうな気がしてくるんですよね。
この技術をこれからもっと磨いていけば、もしかしたら料理人として新しい道が開けるんじゃないかって。まあもちろん、ひよっこ料理人ですけどね(笑)大好きな料理を仕事にできたらもう最高ですよ。
24時間料理をしていても全く苦じゃないものですから、この夢が叶ったらきっと毎日がもっともっとハッピーになれると思います。そのために、このあと1ヶ月間の和食講座を受講することに決めました。
寿司の専門店という形で店をやる自信はまだないですし料理人としてはまだスタートラインに立った程度ですから。寿司と和食の基本を知っていれば役に立つと思うし、開業にあたっては絶対強いと思うのであと1ヶ月、また頑張りたいと思います。